セブキッズとの道!

フィリピン・セブ島を拠点に、スポーツ・音楽教育を通したライフスキル育成に取り組むNPO法人セブンスピリット。

ハイスクールでピアニカ:集大成チャレンジ

先月から、僕は新たにAbellana National Schoolというハイスクールでピアニカ指導を始めました。

abellana explanation.jpg

実は、このプロジェクトはこれまで8カ月の留学やNGO研修を通して今必要だと感じたたくさんの要素が詰まっており、そして今後自分が日本へ帰った後のセブでの活動の礎とすべく取り組んでいる、いわば1年間のフィリピン生活の集大成的なチャレンジです。

なぜ今ハイスクールでピアニカ指導なのか。現時点での僕の考え、そして実際にどのように指導を行っているのか、まとめておきたいと思います。

昨年5月にフィリピン生活をスタートさせて直ぐに、僕はセカンドチャンス孤児院でのピアニカレッスンを開始しました。

ぷー授業.jpg

○「何か自分が子ども達に教えられるもの+彼らがフィリピンで生活していて普段は学ぶ事の無いもの」を学ぶ機会を提供したい

○文化へのアクセスが閉ざされた子ども達の状況を改善し、新たな分野との出会いの手助けがしたい

○ピアニカの途上国での有効活用を狙ったサークル(PocoPoco)の活動の一環として

○集団アクティビティを通して、協調性やルールの遵守を学ばせ、束としての成長を実感させたい

○隠れた才能を発揮する子どもを見つけ、彼らの自信と誇りを持たせたい

これらが、孤児院アクティビティを始めた頃から自分の中にあったモチベーションです。

長期滞在開始前にも何度かこの孤児院に足を運んだ事はあって、この子ども達と1年を通じて何かしらの形で関わりたいという気持ちもありました。

さらに、練習の成果が演奏という形で実を結ぶピアニカ合奏を選ぶことで、彼らが自らの成長を実感し、彼らの周りの人間も彼らの努力を認めやすい。もし素晴らしい演奏ができるようになれば彼らは純粋に評価、賞賛されます。質を高めるほど、大人数でシンクロすればするほど伴う感動が大きくなる「心に響くツール」である音楽を学ぶ対象に選ぶことで、自分の中だけに学びを止めるのではない、子ども達が周りにインパクトを与えられるプロジェクトになります。

加えて、ピアニカというこれまで子ども達の誰も触れたことのない楽器を用いることで、全員が同じスタートラインから始められるという利点もありました。

最終的には、1人では物理的に(手の本数の関係などで)演奏できないようなものを、リズムとダイナミクスを合わせることでグループメイトと協力して作り上げられる、その可能性や喜びを感じてほしいという願いもあります。

実際にレッスンを続けて、自分が目指していたものが実現されてくる実感は確かにありました。

○子ども達同士で教えあう様になった(上手な子が苦手な子に)

○リーダーシップを発揮する子が現れた=集団の中から生まれたリーダーの指示に従う体制が出来た

○演奏が出来るようになり、それを披露して評価されることで、誇りを持つようになった→もっと上達したいと感じるように

○これまでは目立たなかった子が、音楽で能力を発揮し、一目置かれるようになった

○一人ひとりバラバラに演奏して満足するのではなく、リズムを合わせ集団パフォーマンスとしてのクオリティを上げようと意識するようになった

と同時に、問題点も浮き彫りになりました。

○参加している生徒の年齢層や演奏レベルがピンキリで、指導が一人では難しい→上手な子は退屈し、苦手な子には指導が行き届かないという悪循環→全体としての上達が遅れる

○自発的に集まったメンバーではなく、モチベーションの維持が難しい→授業の効率が悪い

○個人的に上達しても次のステージが用意されていないので、上達への意欲が湧かない(級や段といったシステムが無く、現時点での実力を知り、より上を目指すという意欲を持ちにくい。)

○演奏を客観的に評価される場が少なく、上達を実感できない(「褒められて伸びる」がない)

さらに、長い期間をフィリピン人と共に過ごすことで、改善すべきポイントとして以下の様な点を認識するようになりました。

○「教える」「教えられる」/「与える」「与えられる」という立場の完全な分離

「コミュニティ内で学びあう」環境が無い。たとえば、日本の部活文化は「上級生」や「上級者」が「下級生」「初心者」を教え、全体としてのレベルアップを図っていると言えますが、フィリピンにはこのサイクルがあまり見られません。

先生と生徒。政治家と投票者。オーナーと従業員。

“同じ立場”の人間が自分に何かを上から教えてくることを快く思わないフィリピン人の気質もあると思います。

いわゆる、努力による成り上がりはコミュニティの中で心理的に阻止され、結局はビジネスでも政治でも、あらゆる分野で「もともと上にいる人間=特権階級」が庶民を支配する、という構造が定着してしまっていると考えます。

故に、何らかの分野で高いレベルに達した人間がいたとしても、彼はより高い評価を受けられる海外での活動にシフトしてしまったり、彼の能力をコミュニティメンバーと共有しようというモチベーションを持つことは少ないのでは。

これらの理由から、なかなか集団として成長する、という現象は起きにくくなってしまっているのではないだろうか。

○責任あるポジションを担う経験が少ない

上記構造によって、自分自身を「その他大勢の一員」としてアイデンティファイしてしまっている場合が多い。このことは、コミュニティのメンバーに積極的参加(「自分事」)意識を持たせることを妨げ、集団の組織力を低下させている。また、多くのコミュニティにおいて集団構造が縦・横ともに細分化されていないため、トップダウン式の指揮系統が存在せず、効率的な集団運営が難しい。

○あらゆるチャレンジの可能性は経済的事情によって妨げられている

貧困層の庶民にとっては初等教育を修了すること自体が経済的に困難であり、自費で課外活動としてスポーツ、音楽などのアクティビティに参加することは非常に難しい。そのため、国民の文化水準にも社会経済的格差がそのまま反映され、あらゆる階層が同じフィールドで切磋琢磨し合うことはない。国民の大多数が貧困層にあたるフィリピンでは、文化事業への参加者の裾野が必然的に狭く中流層以上に限定され、結果として全体の文化レベルは上がりにくい。

○指導する側に立つメリットが小さい。ボランティアとして指導役に回ってくれる人材も出る可能性もあるが、それだけでは「指導する責任」を自覚するには至らず、やりがいも感じにくい。時間を犠牲にする上、教材を準備するとなると、負担も大きく、指導自体のクオリティが上がらない。

参加者の幅を広げ、上達すれば次のステップに進めるという努力を促進するシステムを作った上で仲間同士での自発的競争意識を芽生えさせ、実際にステップを上がっていくに連れて感じられる喜びや生じる責任を大きなものにしていく必要性もあります。

これらの考えを総合して、今「音楽」や「ピアニカ合奏」には庶民の体質を変える力が十分にあるのではないかと考えています。

ただし、そのためにはいつまでも日本人である自分が「教える」立場に居座り続けてはいけません。

もちろん、技術向上の為に日本人である自分達が手助けをする事は大切です。ですが、プロジェクトの運営そのものに関して言えば、彼らが、彼ら自身の手で進め、教え学び合う形を生み出すことこそが必要です。

そこで、今、ハイスクールプロジェクトです。

ハイスクールで取り組んでいる現在のプロジェクトは、単に彼らに演奏の仕方を教えているものではありません。

彼らは、「将来新たな参加者を育てていく指導者になる」ことを期待してトレーニングを行っている生徒達です。

トレーニング終了後、実際に適切な指導ができるようになった人材に対しては、NGOから指導に必要な経費+指導賃を与えられる仕組みを準備中です。

アクティビティでは毎回、彼ら自身にピアニカの演奏を教えると同時に、どのような手順で授業を進行していけば効率的かつ参加者の意欲を刺激するレッスンを行えるのかという点をシェアし、実際に授業の一部は生徒に先生役を任せ、指導の実習をさせています。

antonette as teacher.jpg

リズムを把握し、ドレミを認識し、楽譜から音を生み、異なるメロディーを受け持つパートが一緒に演奏する。

rhythm training with hands.jpg

この作業を彼ら自身で出来るようにすること。そして、いずれ新たに参加してくる生徒達に、彼らがその能力を共有できるようにすること。ここが大事なのです。

現在、生徒たちは彼らにとって初となる29日のパフォーマンスに向けて練習中です。

お客さんの前で演奏する責任をぜひ感じてほしい。

そして、いい演奏をしてお客さんを喜ばせ、拍手を受けて、音楽を作ることの魅力をもっと知ってほしい。

だから、一生懸命に練習させています。

自分が3月末日本に帰国した後のプロジェクトを継続するための具体的な方法を今練っているところです。

ここまでに感じ、学んだことを活かして、今の時点で考え得る最善のシステムを残していきたいと思います。

ハイスクールのチームの名前は

DANDELIONs

“タンポポ達”って意味です。

abellana team.jpg

この子たちがタンポポの綿毛となって、セブの子ども達にたくさんの音楽と笑顔と感動の花を咲かせていってほしい。そう願ってます!

音楽。ENJOY SOUNDS!!

また、これからもレッスンの様子や今後の展望などお伝えしていきたいと思います。

もし、日本にもう使わないピアニカをお持ちの方がいらっしゃったら、ぜひお声かけください。

セブで使わせて下さい!