9月の月例CPDRCダンスパフォーマンス(囚人ダンス)、昨日日本からの友人と一緒に観てきました。
今回が3度目だったので、なんだか“囚人ダンス”という非現実的な光景にもだんだん慣れてきてしまいました…(笑)
このパフォーマンス、来れば来るほど、見れば見るほど色々と疑問がわいてきます。
そこで、今回はダンスの観覧を少し早めに切り上げて、帰り際にセンターの職員さんにインタビューをしてみました。
ただ、職員さんと言っても、答えてくれたのは実は警備員さん達です。
市の役人を捉まえて話を聞こうと、何人かに声をかけたのですが、みんな「自分は答えられないのでこいつに聞いてくれ→」みたいな感じで。結局最後に辿り着いたのは警備員達。
とはいえ、彼らもセンター内の仕組みなどに関しては熟知していましたし、「役人目線」のバイアスのかかった回答が無かった事を考えれば、結果的にむしろ良かったのかと思います。
では、以下、自分のした質問とそれらに対する回答のまとめ(+余談)です。
1つの質問から話が広がって色々な情報が得られたので、回答は質問内容だけに対するレスポンスではありません。
※CPDRC=Cebu Provincial Detention and Rehabilitation Center(セブ州立勾留所兼リハビリセンター)
○囚人の年齢層は?
-18歳以上。18歳以上で、セブ州内で犯罪を犯した疑いのある人がCPDRCに収容される。18歳以下に関しては、この施設のすぐ傍にあるセカンドチャンスという少年院(いつも自分が子ども達に音楽を教えてるところです。)に送られる。
※セカンドチャンスは、孤児院と少年院が併設された施設です。自分が授業を行っているのは、孤児院側の子ども達。少年院の子達は、別棟に収容されています。
-セブ“市内”での犯罪の場合は、CPDRCの真向かいにあり、「セブ市」政府の管理するCEBU CITY JAILに収監。CPDRCは、あくまで「セブ州」の管轄であり、セブ市を除くセブ州全域から容疑者が送られてくる。
-CPDRCは刑務所ではなく、留置施設。裁判によって刑の確定していない容疑者が収容されている。
○ということは、囚人たちはここで裁判を待っているということ?
-イエス。州庁舎に併設された裁判所で、刑を言い渡されるまでここに収容されている。
-プライベートの弁護士を雇う余裕がある囚人は、比較的早く裁判を始める事が出来るが、ほとんどの囚人には私立弁護士を雇う金銭的余裕はない。その場合、州が提供する公立の弁護士の順番が回ってくるのを待つしかなく、1年以上待つこともしばしば。
(だからダンスでセンターポジションを務める顔ぶりも、何か月経っても変わらないわけですね…。)
○全員が、受刑者ではなく被疑者ということか。刑が確定した場合はどこへ送られるのか。
-90%以上は刑の確定していない被疑者。ごくわずか、事情によって受刑者も混ざっている。
(この10%未満の部分が非常にグレーで、いかにもフィリピンって感じ。)
-裁判を終えて刑期が確定すると、受刑者はマニラにあるNew Bilibidという国立の刑務所に送られる。
○裁判によって無罪となるケースは?
-ごく稀にある。無罪でないとしても、判決で言い渡された刑期以上の年月をすでにCPDRCで過ごしてしまっているケースもあり、その場合は真にらの刑務所には送られず即釈放となる。
(つまり、判決が懲役2年だったとして、裁判待ちの為に既にCPDRCで3年過ごしてしまっていた場合は、刑務所に送られることなく社会復帰、ということ。囚人にとって1年間が無駄になってしまった上、「刑務所」での生活を送らずに犯罪者が社会に戻されるという事でもある。無罪のケース…日本でも同様だけど可哀相だ。)
○CPDRCでの生活費用は囚人が負担するのか?
-運営費は全て州政府が賄っているため、食費その他の経費を含め囚人の負担は0円。ただし、出所時に囚人やその家族から募金を求める事はある。
○食事は1日3回?1日のスケジュールは?
-食事は1日3回与えられる。朝6時に起床し、夜は9時から10時の間に就寝。日中どのように過ごすかは囚人次第。スポーツのできる施設もあり(テニス、バレー、バスケ、チェス、ビリヤード等など)、カラオケも付いている。
○は?カラオケ?!
-うん。カラオケ。
○所内の生活が無料な割に快適過ぎて、外に出たくないと思ってしまう囚人はいない?
-いない(断言)。家族と離れて山の上で長期間暮らし、皆早く日常の生活に戻りたいと感じている。
(でもこれは実際のところどうなんだろう。もちろんこのセンターでの暮らしの後には厳しい刑務所生活が待っている。とはいえ、貧困層からしてみれば十分すぎる生活を送れるのでは…。その上ダンスパフォーマンスで注目を浴び、遣り甲斐さえ感じてしまうと…。)
○家族の面会は?
週に2回、木曜と日曜に許可されている。
○再犯率は低いのか。
-一度釈放されてまたCPDRCに戻ってくる囚人はほとんどいない。
○所内での囚人たちの仕事は?お給料は発生する?
-希望すれば、囚人服作りやハンディクラフトの製作などができる。囚人が来ている囚人服は全て彼ら自身の手作りで、ハンディクラフトは月例パフォーマンス時にお土産として販売するほか、CICCという施設でも常時販売している。
-給料は発生すると思うが、額などについては詳しくわからない。(警備員さんなんで。)
○囚人の男女比は?
-男性が8割、女性が2割程度。
○ダンスを導入した1番の目的は?
-囚人たちを飽きさせず、楽しませるため。それによって、彼らが所内で薬物を使用したり喫煙したりと、不道徳な行動をとることを防ぐ。
○ダンスは全員が参加しなければいけないのか?
-あくまで参加は彼らの意思。高齢で体が動かない人などは参加していない。ただ、全体の4分の3程度は自発的にダンスに参加している。
○ダンスの練習頻度は?
-週に3回、1回4時間程度。
○囚人はキリスト教徒が多いと思うが、御祈りができるスペース等もあるのか?
-小さな教会が所内にあり、毎週日曜にはミサも行われている。
○脱獄犯はいるか?
-いないよ、僕たちが監視してるから(笑)
といった感じでした。驚きがたくさん。誤解していたこともたくさんありました。
詳しく聞くほど、なんだか違和感だらけ。
良い暮らし過ぎない?とか思ったり。
まぁもちろん罪が確認されていない人たちだから、人権は最大限尊重しないといけない訳だろうけども。
結果、刑務所暮らしすら体験せずに、スポーツやダンスやカラオケを無料で楽しんで社会に返される犯罪者もいるわけでしょ。
ダンスの中で社会性を学んで…とかあるかもしれないけれどもさ。確かに。
でも週3、4時間だぞ。それ。
「甦生」も大事だけど、もっと大事なのは「反省」だよなー。
司法、立法、行政がそれぞれグッチャグチャに機能しているからこんな状態が生まれてしまうんですね。
これじゃあ何のための刑事法なのだか。
被害者のためにも加害者のためにもならない。外国人観光客向けのアトラクションにはなるけど。
それを誇らしげに世界にアピールするセブ州、とりわけ州知事。
それってどーなんだい
注目を浴びたからこそ、せっかく注目した人はこの辺の問題にも切り込んでいくべきでは…。
そんな諸事情をすべて頭から排除して、エンターテイメントとしてダンスパフォーマンス観てると、
やっぱり楽しい!!!
皆これでもかってぐらいイキイキ踊ってるし、こっちまで自然に笑顔になります。
社会の在り方、考えないといけませんね…。
フィリピンの問題なんだからフィリピンで解決しろ!
そう言っても、この国のカラクリを見ていると、そうはいかないよな、と思います。
そして、少なからず日本だってどの国だって影響与えてるんです。
逆も然り。
はぁ、社会って、世界って、難しいわ。